出生率という数字

政府の記者会見が、テレビとSNSで同時に流れていた。
「センダガヤ・ネスト第一期、初期成果」とテロップが出た。婚姻届出数、同棲申請数、出生数。三本の棒グラフが、全国平均の二倍から四倍の高さで並んでいた。担当大臣が「都市実験は、確かに成果を上げています」と笑っていた。
カイは、ベッドの上で胡座をかいたまま、その会見を見ていた。十ヶ月前にこの街に入居したときは、こんな数字が自分の住む場所のニュースとして流れる日が来るとは思っていなかった。
部屋のチャイムが鳴った。隣の二〇一号室、ユイだった。彼女は、缶ビールを二本持っていた。
「祝杯ですか」とカイが聞いた。
「半分は」とユイは答え、もう半分は、と続けようとして、止めた。
二人はカイの机の前で、缶を開けた。テレビの中の大臣は、まだ笑っていた。
「数字、すごいですね」とカイは言った。「設計者として、誇っていいんじゃないですか」
「誇っています」とユイは答えた。「半分だけ」
「あとの半分は」
「あとの半分は──」と彼女は缶を回した。「私が、人間を出生数で語る側に立った人間だ、ということを、もう取り消せないという気持ちです」
カイは、ユイの横顔を見た。眼鏡を外したユイは、いつも少しだけ若く見えた。
「ユイさんが設計しなかったら、街は誰かほかの設計者が作って、もっと粗いやり方で同じことをしたかもしれない」とカイは言った。
「それは、設計者がよく自分を許すために使う台詞です」とユイは静かに答えた。「私もそう思いたい夜があります。今夜が、たぶんその夜です」
二人はしばらく、画面の中の数字を見ていた。婚姻、同棲、出生。それぞれの数字の裏側に、三上夫妻の小さな赤ん坊や、独身棟で別れたあの二人や、まだ顔を知らない誰かの夜があるはずだった。
「ねえ、カイさん」とユイが言った。「私たち、数字に入っていないですね」
カイは、しばらく黙ってから、笑った。
「入っていない人の話を、誰かしてあげないと、街はちょっと寂しいですね」