自然に会うように設計されています

「これって、つまり、国営マッチングアプリですよね」
二週目の夜、カイは食堂でユイの正面に座っていた。意図的に同じ時間に来ているわけではない、と、自分に言い聞かせていた。
ユイはチキンサラダにフォークを刺したまま、少しだけ顔を上げた。
「マッチングアプリは、初対面の二人を一度だけ引き合わせる装置です」と彼女は答えた。「私たちが作っているのは、同じ人と何度も顔を合わせる確率を上げるだけの街です」
「同じことでしょう」
「違います。私たちは、誰とも結婚させません。そもそも誰とくっつくか、街は推薦しません。ただ、同じ食堂、同じジム、同じイベント、同じ時間帯に行くと、そこに誰がいるかは、自然に決まります」
「自然、ね」とカイは皮肉に笑った。「自然に会うように設計しておいて、自然って言うんですか」
ユイは少し沈黙したあと、「鋭いですね」と短く言った。「でも、家賃十八万円のワンルームで二年間、隣に誰が住んでいるか知らないまま暮らしたことはありますか」
カイは、フォークを止めた。代々木のあのワンルームのドアの前を、何百回も無言で通り過ぎた朝が、頭に浮かんだ。
その夜から、カイの生活は少しずつ変わった。
朝のジムで、いつも同じ時間に走っている男がいた。コワーキングで、いつも左奥の席に座っているイラストレーターがいた。彼女は三上葵といい、夫の三上翔と二人で、独身棟の一室をシェアしていた。葵は、カイのAI絵本のスクリーンショットを覗き込み、「これ、表紙だけ私が描き直していいですか」と笑った。
知り合いが、勝手に増えていく街だった。
カイは、夜にユイへ短いメッセージを送った。「設計、嫌いじゃないかもしれない」。既読は付いたが、返事はなかった。代わりに翌朝、食堂の窓際の席に、いつもより一人分多くのコーヒーが置かれていた。