第04話
接近

月曜の午後、玲子は半休を取り、髪をひとつに束ねて眼鏡をかけ、隣町のあのカフェへ向かった。
女は、土曜と同じ窓際の席に一人で座っていた。窓辺の光に頬骨の輪郭が浮かぶ。鏡の中で何百回も見てきた、あの輪郭だった。
玲子は深呼吸をして、向かいの席に座った。
「すみません、相席いいですか。混んでて」
女は顔を上げ、にこりと笑った。「どうぞ」
玲子は努めて他人の声で言った。「あの、ずっと気になってて。よく似てる方、いません?私の知り合いに」
女は驚かなかった。むしろ、慣れたように小首をかしげた。
「あー、わたしよく言われるんです。皆さんに『姉妹いる?』って」
「お名前、聞いてもいいですか」
女は迷いなく答えた。
「玲子です。霜村玲子」
玲子は自分の指がかすかに震えるのを、テーブルの下で握りしめた。霜村玲子。それは、玲子自身の旧姓と名前だった。一年半前まで使っていた、結婚前の自分そのものだった。
女は微笑んだまま続けた。
「あなた、お名前は?」
玲子は、迷わずに答えた。
「美咲。坂井美咲です」
それは、二年前の事故のあと、もう死んだことにしていた中学時代の親友の名前だった。