第02話
写真

土曜の朝、拓也はゴルフの練習場に出かけていた。玲子は二杯目のコーヒーを淹れ、書斎へ入った。共有のクラウドフォルダを、自分の端末で開く。
家族用、と名付けられたフォルダの片隅に、見覚えのない名前のサブフォルダがあった。「project_r」。仕事関係の資料を装った、いかにも夫らしい雑なカモフラージュ。
中には何枚もの写真が並んでいた。海辺のテラス。山の見えるカフェ。古い喫茶店の窓際。すべてに、玲子と同じ顔の女が写っていた。
ベージュのワンピース。買った覚えのない服。微笑む口元の角度は、自分のものよりほんの少しだけ柔らかい。爪はパールピンク。玲子は仕事の都合でそんな色は選ばない。
写真の女は、玲子が一度も訪れたことのない場所で、玲子の顔をして笑っていた。
玲子は深く息を吸い、ゆっくり吐いた。心臓は静かなままだった。代わりに、頭の奥でメモを取り始めるもう一人の自分がいた。
「これは、不倫じゃない」と玲子は呟いた。「もっと、奇妙な何かだ」
最後のフォルダのタイトル日付は、二年前。玲子が交通事故で意識不明になった、あの月だった。